「ロシア版プラトーンだ!」という宣伝文句に引かれて観たのが、このDVD作品。 原題は「9th Company(第九中隊)」。
ロシアのアフガニスタン紛争を描いた戦争映画としては史上空前の予算で製作され、2005年のロシア国内の興行成績は圧倒的なトップを果たした。
1988年1月7日から8日にかけて行われた3234高地を巡る戦いを中心に、イスラム武装勢力ムジャヒディンと対峙したソ連軍第345親衛空挺連隊第9中隊の兵士たちを、実話に基づき描いたという。アカデミー外国語映画賞のロシア代表としてもノミネートされている。 日本では未公開。
これまで「プラトーン」とか「ハンバーガーヒル」などのアメリカの戦争映画は見てきたが、ロシアの戦争ものというのはこれが初めてだった。
「地獄の黙示録」や「プラトーン」で描かれたアメリカ軍の敗北と撤退、そして「ソ連版のベトナム戦争」と評される、88年のアフガン侵攻失敗がもたらしたソ連軍の崩壊というのにも興味があったので、なかなか楽しみな映画だった。
映画は雨が降りしきる列車場のそばで、入隊を志願する若者達がそれぞれ愛する者たちと別れを惜しむシーンから映画は始まる・・・
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あらすじと感想
愛するものがいないものは、仲間達と最後のバカ騒ぎを楽しむひととき。
そして次の日からは・・・もちろん地獄のような訓練の毎日が始まるのだった。
鬼訓練軍曹の元で、戦士として成長を遂げていく様子が事細やかに描かれていく。
この辺の訓練模様はスタンリー・キューブリック監督作品の「フルメタルジャケット」とほとんど同じだった。
厳しい軍曹がいて、初日に「お前らはゴミだ!我が祖国の誇りである空挺部隊の恥だ!」と罵られる人格否定から始まって、最初は「なんだこいつ」みたいな目でお互いを見ていた訓練兵同士が、厳しい訓練を経る内に次第に仲間として認め合う日々。
最後の出征前夜にはクスリを吸いながら、売春婦と順繰りに楽しむまで打ち解けた仲となるのだった。
次の日には死ぬこと確実の最前線に送られることを覚悟しながら・・・
アメリカの戦争映画だと、部隊には必ず一人か二人は肌の色が異なる人種が混じっているものなのだが、この映画はロシア製だけあって、ほぼ全員がロシア白人であることが新鮮だった。
あとは兵士のTシャツが横縞であることだろうか。
1900年代初頭に朝鮮半島に南下してきたロシア軍を防ぐため、当時の明治日本が民族の興亡を賭けて戦った戦争(日露戦争)を巡る司馬遼太郎氏の小説「坂の上の雲」でも、ロシア水兵が「ウラァ!」と掛け声をあげる描写があったが、この映画でも少し後に実際に「ウラァ!」と言っていたのも面白かった。
最前線陣地に送られた兵士達は、訓練終了後に二つに分けられ、任地がそれぞれ決まっていく。 それまで厳しい訓練を共に過ごしてきた仲間達との別れ。
これで最後になるかもしれない。
お互いが抱擁を交わしながら武運を祈りあうのだった。
そして残された兵士達が配属された先が「第9中隊」 。
新兵達の直接の上司となる丸坊主の軍曹と、医療担当のアジア系の先輩兵士。
このアジア系の先輩兵士の雰囲気がとてつもなく清原番長に似ていたというのは、あくまで全然映画とは関係の無い情報であることはいうまでもない。
左側が番長
「お前ら、訓練で覚えたことは全部忘れろ」
最初に軍曹にそう宣言された新兵たちの顔に不安がよぎる。
しかし目の前の酔っ払った、いかついスキンヘッドの上官に逆らえる術も無かった。
(軍隊とは上官には絶対服従の世界であり、どんなに理不尽な命令でも「イエス、サー!」と直立不動で答えるのがデフォなのである。)
そして次の日から、地獄のような訓練にも勝る過酷な任務が始まる・・・
と思っていた。
しかし新兵たちに思いがけない言葉が待っていたのである。
「輸送部隊の護衛だよ」
軍曹はぶっきらぼうにそう言った。
「どうした?いきなりドンパチでも始まるとでも思ってたか?」
困惑する新兵たちをからかうように、軍曹はフフと不敵に笑った。
安心したような、困惑したような表情が新兵たちの表情によぎる。
しかし戦場に心休まる場所など存在しなかった。
輸送部隊に襲い掛かるムスリムの戦士達。
度重なる奇襲攻撃と子供をも兵士にするゲリラ戦法。
次々と倒れていく仲間達。
生存率数パーセントといわれた最前線の過酷な現実を知る、新兵たちにとって最初にして最後の機会だった・・・・
忘れ去られた戦士たち
結局ソ連はアフガンから撤退し、軍指導部も激戦を生き抜いた兵士の存在すら忘れていた。
そんな愚かさも含めて、全てが完全にロシア版ベトナム戦争だった。
アメリカ、ソ連という国家の違いこそあれ、兵士達の思いや苦労は全く同じだったのだ。
そんなことを改めて確認できた作品でもあった。
作中で「ゴルバチョフはなにをやってるんだ!」と愚痴る古参兵のくだりは、当時の世界情勢を知る上でなかなか興味深い描写だったし、新兵訓練所での訓練内容が映画で見るアメリカ海兵隊のそれと酷似していることも、いろいろと参考になった映画だった。
最後に生き残った第9中隊の兵士が戦場を去るシーン。
ジープに揺られて夕日を背にアフガンの大地を眺めるあの表情からは、戦友たちの死を悼む気持ち、過酷な戦場を生き抜いたものだけが持つ風格のようなものを感じ取れて実に印象深かった。(この生き残りの兵士は元マフィアで、入隊当初に軍の理髪店でいきなり理髪師を殴り飛ばすなど、かなりのヤンキーな役柄だった。最初に見たときは真っ先に戦場で殺されるタイプだと思ったのだが、意外に最後まで仲間を見捨てず戦い抜いたことにちょっと感動した)
最後に・・・
もし彼がその後のソ連の末路を予測できていたなら、その憂いを帯びた表情に
「崩れいく祖国への哀愁の思い」
のようなものも加えてしかるべきだとも思う。
しかし実際には、自分達が戦う最後の心の砦であった祖国が崩壊すると知っていたら、きっと彼らは戦意すら喪失するだろう。
いや、目の前の戦友のために戦い続けるか?
どちらにしても、彼ら第9中隊が辿った軌跡というのは、戦場になど立ったこともない、僕のような平和ボケした極東の一市民にとっては想像すらできない、過酷かつ想像を絶する世界であったことは確実なのだろう。
どうか全ての死者に、安らかな眠りが訪れんことを・・・