イギリスの小説家ジョン・ル・カレ氏のスパイ小説「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」を映画化した作品です。
主演にイギリスの名優ゲイリー・オールドマンが演じていて、それ以外にもコリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズ、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチなど主要なキャラクターをイギリス人俳優で固めた正統派英国スパイ作品になっています。
今回はその魅力について語っていきましょう。
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映画の魅力について
映画は心理戦や情報のやり取りによる諜報作戦がメインに展開していきます。
原作ともに基本的なストーリーは冷戦中の西側と東側の攻防を描いていて、主人公のジョージ・スマイリーは英国秘密情報部で秘密作戦に従事する中高年のベテランスパイの役割です。
映画ではこの役をゲイリー・オールドマンが演じていて、アクションがほとどなく決して派手ではない、むしろ様々な伏線や情報の錯綜から真実やウソを見抜いていく心理戦の描写が多い地味な役柄を見事に演じ切っている素晴らしさ。
内容はっきりいって難解で、公開当時は原作を読んだことがなかったので、一度見ただけでは理解できませんでした。
なのでその後DVDを借りてきて2度ほど見てようやく「ああ、そうか!」と、本来の意味を把握できたという己のボンクラぶりを見事に揮した映画でもあります(笑)
配役も有名どころが多く、とくにコリン・ファースが超重要な役割を演じています。
その相手役であるマーク・ストロングは後に公開されるスパイ映画「キングスマン」(2014)でコリン・ファースと組んでいるというところも、色んな意味で見どころ満点だと思いますね。
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この作品の最大の魅力は「淡々と進むけれども、その裏でスパイの非情さと悲哀が錯綜する人間模様のストーリー」というところ。
スパイ作戦そのもののダイナミズムも十分に魅力的なのですが、それらを動かす人間の感情、国家への想い、人としての在り方などを、2時間強の間にみっちり詰めて表現してくれているのです。
言葉を尽くして語るのではなく、登場人物の表情や行動で物事の裏や進展を描いていく以心伝心的なな描写が、ハリウッドもののスパイ映画に見慣れた自分にとっては新鮮でした。
かなり本格派でリアルな内容になっているのですが、007のイアン・フレミングと同様、原作者のジョン・ル・カレは英国諜報部(MI6)の諜報員でした。
欧米の諜報部は組織の関係者に小説やドキュメントを書かせて、世間にスパイ組織のアピールさせて、新人のリクルートや国民の支持を得ることに役立たせているというのを聞いたことがあります。そのもくろみはバッチリ当たってますよね!
ちなに諜報部主催のパーティーで、当時の主敵であったソ連国歌を、レーニンに扮した何者かが音頭をとって皆で合唱するシーンがありましたが、このシーンになんだかすごく心を奪われてしまいました。
ロシア国歌の素晴らしさというのか、唱歌するのにこれだけ魂が震える歌というのは、世の中そうはないです。
そいい旋律、いいメロディーというのは、時代も国境も軽く越えて人の心に響いてくるもんなんですね。
ちなみにこの合唱シーンで原作者のル・カレも出ています。
今このブログ記事を書くのに調べていて初めて知った驚愕の事実(笑)
いったい映画見てから何年経ってるねんと(笑)
ほかにも出演者と握手してる写真もネット上で色々上がってて、原作者ならではの映像化への思い入れというのがあるんでしょうね。
主人公スマイリーの魅力とは?
ゲイリー・オールドマン演じるジョージ・スマイリーの平凡らしい風貌(これはもっぱらドラマ版と映画版の影響が大きい)と穏やかな物言いが、スパイらしくないというところが、刑事コロンボのそれと非常によく似ていると思います。
コロンボと同様に、鈍い切れ味と見せかけて徐々に網を手繰り寄せていく執念と繊細さ、穏やかな物言いながらも、確実に相手を追い詰めていく凄腕の説得手腕・・
これらがのギャップが、スマイリーシリーズの時代を越えた欧米スパイ小説ファンの心を掴んで離さない魅力なのではないでしょうか?
プロットはよく練られていますし、出てる俳優陣も豪華で映像も演出も大変素晴らしかったです。
見ごたえがあるのはすごく確かなのですが、いかんせん、小説の濃い内容を90分かそこらの一本の映像作品に収めるには尺が足りなかったのか、全体的には未消化の感がありました。
というか、
一度見ただけでは、何が何だか分からない
というほうが正確ですかね。
登場人物の複雑さとプロットのこんがらがり感、そしてラストシーンでの意味深げな見つめ合いは、見るものによっていろいろな解釈ができるんじゃないだろうか?と。
2度3度とみて、ようやく意味を解したつもりになるも、これとて正解なのかどうか良く分からない。
後に小説を読んで「ああ、なるほど」と理解したほどだ。読み込み方が間違えてなければ、たぶん私の想像するラストの意味はこうなんだろうなあというのはあると思うのですが・・・
映画の挿入歌やBGMは本当に良くて、どれもシーン・シーンにぴったりなものばかりでした。
中でもラスト付近のBGMは秀逸でしたね。
センス良い選曲は映画の出来を格段に上げるので、その意味でこの映画は本当に力を入れて作られたのだなと強く感じました。
問題は原作の世界観があまりにも大きすぎたがゆえの「収まらなさ加減」でしょうね。
他にも映画化されていたスマイリーシリーズ
小説の映像化に関しては、「裏切りのサーカス」が初めてではないようで、1979年に放送された英国BBCの同名ドラマが先行してる模様。
主人公スマイリーはあの名優アレック・ギネス(スターウォーズの初代オビ・ワン・ケノービを演じた)が演じたというから、かなり本格式のスパイドラマに違いないです。
アレック版のスマイリーを動画でちらりと見ましたが、小説のイメージはアレックのほうに近いですね。
紳士的な雰囲気がぴったりというか。
ゲイリーも映画ではいい演技をしていました、いかんせん「レオン」や「シド・ヴィシャス」のイメージが自分の中では強すぎるので(笑)、伝統的な英国スパイの役柄にほんのり違和感を感じてしまいました。
でも変なイメージがなければ、十分素晴らしい配役だったと思います。
まとめ
英国はスパイ小説が盛んなお国柄でありますが、実在する諜報組織が宣伝活動の一環として、積極的に情報を開示して元諜報員の作家や、一般の作家に書いてもらっているということを何かのメディアで聞いて知ったことがあります。
007シリーズのフレミングや、このル・カレはもちろんリアルな元諜報員なので、小説として公表する裏世界の情報も十分に把握したうえで世に送り出しているのだと思いますね。
そうやって考えると、「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」で描かれたスパイの内情は非情なほどに現実に即しているのだな、と改めて本の内容の奥深さに感心させられました。
リアルすぎるスパイ映画としてイチ押しの作品です。
*ジョン・ル・カレ氏は2020年12月12日に肺炎により英国の自宅で逝去されました。享年89歳。ご冥福をお祈り申し上げます。
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