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タランティーノのクールなギャング映画「パルプ・フィクション」レビュー

2024年6月30日

1994年の傑作映画。

タランティーノ監督を一躍世界的に有名にした作品だ。
公開当時はジョン・トラボルタが往年のサタデー・ナイト・フィーバーを全く彷彿とさせないメタボ姿でダンスしていたシーンが懐かしい。

複数の話を同時進行させながら、ときおり時系列を交ぜつつ進んでいくストーリー展開が非常に斬新で、一度見ただけでは物足りなかったので、二度も劇場に足を運んだ記憶がある。

普通ラストシーンでは、それまでの話が一気に集約されていくものだけれども、この作品は時系列を少し遡らせてエンディングに持って行っているのだから面白かった。

後で考えると、「ああ、あのシーンがこうつながるのか!」とか「最後はあれで終わったけど、その後の展開は実はひとつ前のあの話につながるんだな」という、一風変わった楽しみ方が出来る映画というか。

タイトルの「パルプ・フィクション」自体が漫画のような展開を想像させるネーミングだけに、実際の映画進行もいたって漫画的だ。

今回はそんな懐かしの名作のレビューを書いていきたいと思う。

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セリフの面白さが良かった!

自身もギャングの友人役ジミーで出演しているタランティーノ。

そのマシンガントークぶりを発揮して、自分の家に黒人の死体が運び込まれたことを攻め咎めるセリフが面白かった。(以下前後のあらすじとセリフ)

麻薬ビジネスのトラブルで処理に行ったギャングの手下のトラボルタとサミュエルが(映画ではヴィンセントとジュールス)、帰りの車中で誤って仲間の黒人の頭を銃で撃ってしまい、車内は血まみれになる。白昼の街中を血まみれの車で走るのはさすがにマズイということで、ジュールスが近くの友人ジミー(タランティーノ)の家を訪ねることにする。電話では了承したジミーだったが、まさか自分の家に死体が積まれた血まみれの車が到着するとは知る由もなかった・・・ 

ジミー:「一つ聞くけど、俺の家の前に”黒人の死体を預かります”っていう看板がみえたか?」

ジュールス:「ジミー、それは・・・」

ジミー:「見えたかって聞いてるんだよ!」

ジュールス:「いや、見てない・・・」

ジミー:「なぜ看板がないか知ってるか?」

ジュールス:(ため息)「・・・なぜだろうな」

ジミー:「教えてやろうか?なぜなら、うちは黒人の死体を預かる商売なんかやっちゃいないからさ!!

とにかくセリフがバカ面白い。どうでもいい日常の会話をこれだけお洒落に見せつけてくれる映画もそうはないと思う。

見てるだけで食欲がわいてくるシーンが多いのも、この映画の特徴。

トラボルタ演じるヴィンセントが、朝のファミレスで相棒と一緒に食べるパンケーキとポークチョップの朝食が妙に美味そうだったりするのもそれだ。

ほかにも相棒のジュールスとヴィンセントが麻薬のトラブルを解決するために訪れたアパートで出てくるチーズバーガーや、レストランでギャングのボスの妻が注文したミルクシェイクなど、それぞれのシーンで登場する食事のシーンが実に美味しそうなのだ。

会話も食事もどちらも快楽という本能に直結するものなのだろうが、タランティーノはこういった描写で観客の五感を刺激しようと試みていたのかもしれない。

そしてもう一つの本能である暴力も、この映画では重要なファクターになっているのだ。

地下室でのバイオレンスシーン

ギャングのボスであるマーセラスと、八百長ボクサーのブッチが、ホモの質屋の親父に捕らわれて、親父に呼ばれた汚職警官ゼッドを待つシーンがあった。(この説明だけでお腹が一杯になりそうだ!)

やがて最初に汚職警官ゼッドが到着し、捕まえた二人の処遇を考える。

そして・・・最初に呼ばれたのが、哀れなマーセラスだ。

その後、ブッチの背後で絶叫鳴り響く地下室のドアが静かに映し出されるのであった・・・・(わずかに見えるドアの隙間から、汚職警官にケツを掘られる姿が見えていた)

(俺も掘られる!)

そう思ったのかどうかは分からないが(いや完全に思っただろう)、ブッチは渾身の力で縄を振りほどき、かれを監視していた全身タイツの奴隷覆面男を一発でノックアウト。

そのまま階上に駆け上がり、店に置いていた日本刀を奪うと、一瞬ためらいつつも、一呼吸おいて階下に下っていくブッチ。

もともとはマフィアのボスであるマーセラスに依頼されていた八百長試合を裏切って、この街から逃げるつもりだったのだが、その途中で運悪くマーセラスに出会ってしまい、逃げる先でこの変態質屋とその親玉である警官に捕まってしまう流れがあった。

だから自分から裏切ったはずのボスを助けるゆわれはないわけだ。

しかしブッチは助けることに決めた。

地下室の拷問部屋の扉を開け、背後からホモ仲間の店の親父を一刀両断。

そして そのまま返す刀でゼッドを切りつけ、とどめを刺そうとしたそのとき・・・・

「ズガーン!」

ライフルの銃声が鳴り響いた。

ブッチに背を向けてゼッドを見下ろすマーセラス。

それまでゼッドにカマを掘られていたマーセラスは(そのシーンもユーモラスなのだが)、ブッチに助けられてケツの穴を押さえながら、横で立っていたはずが、いつの間にか銃を取ってぶっ放していたのだ。

冷たい目をして己のケツを掘った汚職ポリスのゼッドの股間を撃ち抜くと、マーセラスは携帯で部下にここに来るように命じたのだった。

「お前が俺にした数百倍のことを返させてもらう。この世に生まれてきたことを後悔するようなことをな」

もだえ苦しむゼッドに強烈な報復宣言を言い放ったマーセラス。

横で呆然とするブッチに「このことは絶対に他言するな。そして今日中に街を出ろ。二度と戻ってくるんじゃねえぞ」と伝えた。

前の日にボクシングの八百長試合でブッチに大損かかされたマーセラスだったが、逃れるはずのブッチが自分を助けに戻ってきてくれたことを謝し、報復せずに見逃すことにしたのだった。

ゆっくり頷いたブッチが部屋を出ようとしたとき、マーセラスは背中越しにゆっくりと片手を挙げた・・・

このシーンは映画の中で最もバイオレンス感が出ている下りだ。

なにせ暴力とホモセクシュアルが同時進行しているからハードボイルドなことこの上ない。

マーセラスが汚職警官ゼッドに報復するシーンは作中には出てこないけれども、終始言葉の少ないマーセラスの怒り心頭な表情が、ゼッドのその後の運命を思い起こさせるようで想像だに怖ろしい。

謎の覆面男の正体とは?

このくだりで違和感というか、奇妙な気持ち悪さを感じたのは、最後の最後まで物言わず、作中でも一切説明の出てこない覆面男ギンプだった。

ブッチとマーセラスのカマ掘られ事件が起こったこの質屋の地下室では、店主のホモ親父と、その仲間であるハードゲイ警官の奴隷のような立場で、この全身タイツの覆面男が鎖につながれて檻に入れられていたわけだ。

多分奴隷扱いされることを無常の喜びとするハードゲイ仲間なのだろうが、台詞なしでブッチにノックアウトを食らう男の存在感は強烈なものがあった。

映画公開当時からずっと気になっていたのだが、最近ようやくその正体が判明。

ステファン・ハイベルトという英国の俳優さんだ。この記事を再編集してる2016年4月に改めて検索してみると、2014年に行われたインタビュー記事が見つかった。(写真も記事からお借りした)

記事によれば、90年代の初めにコメディーショーでタランティーノと共演したことが縁で、当時パルプ・フィクションのシナリオを描いていたタランティーノに頼みこんで、この配役をゲットしたという。

記者の「姿が映らないのに問題なかったのか?」との質問に「ぜんぜん!」と答えつつ、

「当時あの撮影現場は劣悪で衣装も合わなかったんだ。でもみんな親切にしてくれたし、僕の衣装の着心地の悪さも理解してくれてたよ。だから演じやすかったね。マスクの中の僕の顔は恥ずかしさで真っ赤だったんだけど」

Bring Out The Gimp': The Man Behind The Mask In 'Pulp Fiction'

と答えている。

驚きの事実が20数年ぶりに判明したわけだ。

長い間のどに刺さっていた小骨が取れたような感覚というか。

しかし彼の俳優業の中で一番有名なのがこの覆面男役というのも、なにかしら物悲しいものがあるような気がする。

現在の彼はロスに生活の基盤を置いて俳優業と脚本業で生計を立てているとか。

さらに絶賛お仕事募集中らしいので、日本のバラエティかなにかが、彼を呼んで再ブレイクしてもらうのも良いんじゃないですか(笑)

まとめ

今回取り上げたシーンは、どれも自分の中でずっと心に残っていて(とくに覆面男の正体)、そのことを調べるためにこのレビュー記事を書いたといってもいいほど。

なので今、気分は非常に爽快です(笑)

もちろんほかにも見どころがたくさんあって、華のある俳優さんやシーンが山ほど登場したり、下ネタやグルメ、セリフと映画の筋立ての妙のみならず、ちょっとした小道具やBGMにも、タランティーノのセンスの良さを感じることができる作品になっている。

これ以降も彼の作品は多く出ている仲、依然として今作品が圧倒的な人気を得ているところを見ると、もはやタランティーノの代表作といえると思う。

とにかくお洒落で興味深い映画。

未見の人は、ぜひぜひ一度ご覧あれ!(とくにサントラは秀逸!)

「パルプ・フィクション」のセリフで生きた英語をチェック!

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