キッスの創始者でありバンドリーダーのポールスタンレーの自伝レビューです。
出版自体は2013年ということで、少し前のことになります。
キッスと言えば、歌舞伎のようなド派手なメイクと衣装が有名ですが、楽曲は意外にストレートなロックが多くて、私のような80年代洋楽ビルボードで育った耳の感性でもかなり聞きやすいんですよね。
彼らがデビューしたのが1973年ということで、私が生まれる前の歴史あるバンドですが、50年近く経った現在でもまだ現役で活躍しているのがすごい!
そんな歴史的で超ビッグネームなスーパーバンドの創始者ポール・スタンレーの自伝を初めて読んで「これは・・・面白い!」と色々と感動したので、今回はその感想をお伝えしようと思います。
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コンプレックスの塊だった少年時代
本はスタンレーの幼少時代から時系列で進んでいきます。
序盤は彼の生誕の頃の話と、少年期から思春期の過去を辿った形になっています。
両親はユダヤ系の移民の家系で、父親・母親ともに少し複雑な性格で喧嘩が絶えなかったと言います。
実の姉も精神的に不安定なところがあったこと、さらにスタンレー自身が先天的な病気で片耳が欠損していることもあって、かなりコンプレックスの強い少年期を過ごしていたそうです。
この頃に抱いた「自分のありのままの思いをさらけだせない」という気持ちは、後にキッスとして世界的に大成功して富と名声を手に入れた後も、ずっと続いたようですね。
ジーンとの出会い
それが変わったのが音楽。
もともと両親がクラシックが好きだったこともあって、子供の頃から音楽に触れられる環境にはあったスタンレー。
長じるにつれてロックに出会い(ビートルズやツェッペリン、ローリングストーンズ全盛の時代だった)、そこから急速にバンド志望をもつようになったということ。
そして様々な紆余曲折を得て、ついに後のキッスの盟友となるジーン・シモンズと出会うことになります。
ジーン・シモンズといえば、ふてぶてしい態度と大物風の重厚な雰囲気が特徴的ですが、スタンレーが初めてジーンと出会った時も、やはりそういう印象を抱いたそうです。
面白かったのが、一緒にバンド活動を始める時に、ジーンがそれまで作曲したタイトルを聞いて「少し変わってると思った」とスタンレーが感想を述べていた下り。
たとえば「My uncle is a raft(俺の叔父はいかだ)」「My mother is the most beautiful woman in the world(俺の母親は世界で一番の美人)」といった具合で、独特の作詞センスが当時はあったようですね。
キッスの外見は完全オリジナルだった!
キッスがキッスたる最も大きな特徴。
それがあの顔面メイクとド派手なコスチュームです。
最初は当時ニューヨークにでてきたバンドの多くが「ニューヨーク・ドールズ」というバンドをお手本にしていたそうです。
しかしスタンレーは「あれをそのまま真似していても、俺たちは彼らに勝てない」と思い、様々な趣向を凝らして今のスタイルに落ち着いたと言います。
メンバーそれぞれが各々のアイデアでメーキャップをして「コンセプト」を考え出すくだりは、かなり興味深く面白いと思いました。
なかでもやはり一番目立っていたのはジーン・シモンズ。
左右対称で悪魔。歌舞伎のような演出。舌を出したあの表情!
スタンレー自身は目の周りに星を描いた「スターチャイルド」というドリーミーなキャラである一方で、相棒であるジーンが悪魔的なキャラで攻めるという「対照的」なアイデアに「ステージ上で織り成す素晴らしい”光と影”の対比だったよ」と当時の思いを振り返っています。
こんな彼らをさらに前進させたのが、デビュー当時のマネージャーのビル。
「人前に出る時はメイキャップとコスチュームを外すな」と命じて、キッスのイメージ戦略を定着させといいます。
名プレーヤーと名コーチ(参謀)の組み合わせは、いつの時代であれ、どんな業種であれ、成功をもたらすための必須条件になるという証ですね!
お決まりのメンバー間の確執
スタンレーと彼の盟友たちで作った「KISS」は、イメージ戦略の成功とバンドのキャラにあった「人を楽しませる音楽」が受けて、すぐに人気バンドになります。
その名声がアメリカ国内から世界レベルにレベルアップするにつれて、ロックバンドにありがちな「メンバー間の確執」が生まれるわけです。
中でもひどいなと思ったのが、リードギタリストのエースと、ドラマーのピーターの性格破綻ぶりでした。
エースは加入当初からものすごくマイペースな性格だったそうで、バンド初期の頃にスタンレーらが楽器などの機材を運び込む時でも絶対に手伝わなかったり、その横で「勃ったときの俺のぺ〇ス」といってベロンと自分の息子を差しだりたりと、なかなかの奇人ぶりを発揮していたとか(笑)
ドラマーのピーターはドラマーとしての実力がそれほどなかったりとか、なぜか不機嫌だったり、文句をすぐに言う性格だったりと、エースとは違った意味で「積極的なマイナス部分」を露わにしていたといいます。
そんなこんなで結局は彼らはバンドを離れることになり、今は新しいメンバーがキッスの一員として活躍しているようですね。
もちろん屋台骨はスタンレーとジーンですよ。
スラッシュ、ガンズ・アンド・ローゼズとの出会い
この自伝に書かれている記述の中でも最も目を引いたものの一つが「スラッシュとガンズとのやり取り」です。
なにせ私はガンズファンですからね。
とくにスラッシュ先生のキャラが好きなので、この本で書かれていたスタンレー氏との絡みに「おおおっ!」と反応してしまったわけですよ。
そんなスラッシュとの話になりますが、1982年当時に、それまでのメンバーだったギタリストを解雇していたキッスは、新たなギタリストを募集していました。
そのときのオーディションにきていたのが、スラッシュだったということ。
そこの部分のやり取りが以下になります。
・オーディションに来ていたギタリスト志望者で、とても好感のもてるサウル・ハドソンという名前の青年がいた
・言葉遣いもよくて、熱意もあった
・ただ17歳という年齢が、30才を越える自分たち(スタンレー自身とジーン)とは合わないと考え、「君はとてもいい子だが、この仕事には若すぎると思う」と断った
・その後も彼の幸運を祈ったし、彼のことはずっと忘れなかった。何物にも影響されていない、とてもいい子だったから
以上のように「べた褒め」していたことに驚きました。
先ほども言ったように、スラッシュもガンズも自分の好きなミュージシャンでありバンドなので、この記述を読んだ時は正直に嬉しかったですね。
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しかも以前から「見た目はインパクトはあるけど、正確は穏やかで優しいスラッシュ」という前評判があったので、まさにそのとおりのイメージを別バンドの大物からお墨付きで頂いていたということは、ファンにとっても感激者ですから。
しかし
その思いも次の記述であっさりと覆ることになるのです。
・1986年にマネージャーから「ガンズ・アンド・ローゼズというデビューしたてのバンドと契約したレコード会社が、彼らのプロデューサーを探しているらしい。一度チェックしてみないか」との誘いがあった。
・バンドのアパートに出向いたときに、挨拶代わりに軽いジョークを放ったが、反応が鈍かった
・イジー・ストラドリンは意識がなく、口の端からよだれを垂らしていたし、自らスラッシュと名乗るカーリーヘアーのギタリストは半ば眠っているようだったので、自分のジョークが通じない理由が分かった(酒とドラッグのせいということ)
・ダフ・マッケイガンとスティーブン・アドラーはとてもいい奴らだった。とくのスティーブンは自分がいかにキッスのファンだったかを熱く語ってくれた
・アクセルとは彼がバンドの音楽を聞かせてくれた後で、それについてのアドバイスをいくつかしたのが、彼と話をした最初で最後だった。
・半ば眠っているカーリーヘアーのギタリストが数年前のオーディションで面接をした、あの可愛い少年のなれの果てとは気づかなかった
・その後スラッシュにギターのチューニングについて少し教えた後、自分のスポンサーになっている楽器メーカーから無料でギターを提供してもらえるように助けてあげられる、と提案した。(才能ある若いギタリストを支援する意味で)
・その夜にガンズのライブを見た時に衝撃を受けた(途方もなく素晴らしい、真に偉大なものを目撃している、という表現で記述している)
・後でスラッシュが陰で自分(スタンレーのこと)の悪口を言っていることを山のように聞かされた(ゲイだとか、服装のことをバカにしたりとか)
・俺の悪口に関する噂を聞いた数か月後に、スラッシュ本人から、以前に彼に提案した「無料でギターを提供する話」を実行してほしいと電話があった
・陰で俺の悪口を散々言っておきながら、俺にギターを手に入れる手助けをしてほしいという提案に「お前と知り合えて良かったよ。とっとと失せろ」と言い放った
以上になります。
ガンズファン、そしてスラッシュファンとして非常に悲しいことですが、おそらくこの記述は事実だろうと思います。
彼らも若かったでしょうし、何よりも業界でのし上がってやるという野望に満ち満ちていた時期の話ですから、後に「穏やかな人」というイメージをもつに至るスラッシュ先生も「若気の至り」を大物ミュージシャンにいたしてしまった、ということになるのでしょう。
加えて笑えるのが、回顧録の序盤でイジーが口の端からよだれを垂らしていたという記述です。
これは完全にドラッグによるトリップというやつですね。
この頃のイジーは確か生活のためにヤクの売人をしていた頃でしょうから、まさに「沼」にハマっているタイミングでスタンレーは出会ってしまったのでしょうね。
スラッシュも半ば眠っていたと表現されていますから、イジーと一緒に「旅立っていた」のかな?
また「あの頃の可愛い青年のなれの果て」という表現で軽く罵倒されているのも笑えますし、これが最後のやりとりで完全に破たんする流れになるのも「むべなるかな」と。
ダフやスティーブンの人の良さや、アクセルとの淡いやり取りの下りを読んでいると、実はメンバーの中の問題児はイジーとスラッシュだったのでは?という気すらしてきます。
そう考えると、後にアクセルがスラッシュと仲たがいしたのも、この頃からのスラッシュの言動の振る舞いに関係があったのかもしれませんね。
人の評判と言うのは、一面だけでは測れないものだということを、スタンレーとガンズメンバーとのやり取りで感じとれた記述でした。
ジョン・ボン・ジョヴィは若い頃からビジネスマンだった!
ガンズとのどちらかというと「破滅的」なやりとりのあとに、当時すでに人気が出始めていた「ボン・ジョビ」との関係にも軽く触れられています。
キッスのヨーロッパツアーの前座にボン・ジョビを起用していたツアー中に、ジョンはスタンレーと常に話をしていたそうです。
・ジョンは頭のいい男だった
・いつもホテルのバーで俺たちと一緒に腰かけて「演出の経費を削減する方法」やそのほかのビジネスの質問をしてきた
・ツアーの終わりごろに彼らのマネージャーから「一緒に曲作りを」と提案されたときに「デズモンド・チャイルドがいいよ」と言って、彼の電話番号を渡した。
・それから一年経って、デズモンド・チャンルドがスタンレーの家を訪ねてきて、ボン・ジョヴィと作ったアルバムを聞かせてくれた
デズモンド・チャイルドと言えば、80年代では飛ぶ鳥を落とす勢いの売れっ子の作曲家で、自身もバンド経験者だったことから、主にキッスなどのロック系ミュージシャンとの共同作業が多かったと思います。
その彼をボン・ジョビに紹介したことで生まれたのが、86年リリースの「ワイルド・イン・ザ・ストリート」です。
このアルバムには「禁じられた愛」や「リビング・オン・ア・プレーヤー」などのヒット作が収録されていて、ボン・ジョビの名声を一気に世界的に高めた記念作になっています。
そのヘルプをしたスタンレーと、彼に教えを請うたジョン。
まさにミュージック・ビジネス界で成功した師匠と弟子という感じですね!
「オペラ座の怪人」がスタンレーの心の闇を解き放ってくれた
スタンレーは幼少の頃から肉体的な欠損が原因で、ずっと「自分の本当の気持ちを表に出せない」感情に捉われてきました。
たとえ成功して富や名声、美しい女性たちとの自由奔放な関係が思うがままになっても、ずっと「本当の自分ではない」という思いがあったといいます。
それを解き放ってくれたのが「オペラ座の怪人」。
ツアーやアルバム製作がない閑散期に舞い込んだミュージカル出演の話に乗った彼が、その練習中や本番の流れのなかで主人公の生きざまや言葉が自分の心の「何か」を救ってくれるような感覚を得たというのです。
自らの醜い顔面を見られないように常に仮面をかぶって生きる怪人と、彼を愛する美しい女性。
でも本当に醜いのは「見た目」ではなくて、本当の自分から顔を背けようとしている自分自身なのだと気づく瞬間。
スタンレーは怪人と己の人生を重ね合わせ「ハッ」と気づくのです。
それから偶然にも顔の欠損で苦しむ子供たちを支援するNPO団体から「講演」の依頼を受け、それを引き受けることで「自分が救われる気持ちになっていった」ということ。
「人を助けることが自分も救うことになる」ことに気付いたということ。
こうしてスタンレーはそれまで自分自身を縛っていた「心の重り」を解き放ち、新たなポール・スタンレーとして人生の一歩を踏み出すことになるのでした。
このくだりは本の後半になるのですが、この流れが一番心に響きましたし、感動させられました。
スタンレーだけではなく、人は誰でも「人にいえない悩みや苦しみ」を持っています。
でもそれを押し隠して自分を偽るように生きることには意味がないということ。
自分を認め、自分を許すこと。
そして誰かに助けの手を差し伸べること。
そうすることで自分自身が救われるということ。
人と人とは繋がっていることを感じさせてくれた、素晴らしい記述だったと思います。
この章だけ読んでも、この本を買った価値はあると感じました。
まとめ
キッスのオリジナルメンバー、ポール・スタンレーの波乱万丈な人生を描いた自伝でしたが、本の最後まで常に彼は「成功していることへの感謝、周りへの感謝」を述べていました。
「ライブで同じヒット曲を繰り返しプレイすることを嫌がるミュージシャンもいるけど、俺は一度もそう感じたことはない。いつも思ってるよ。なんて有難いことなんだって」
この言葉が彼をスターダムに押し上げた原動力になっていると思いますし、多くのファンやミュージシャンに愛されている生き様なんだなと思います。
様々な苦しみや葛藤を得つつも、バンドを継続し、家族に恵まれたスーパースター、ポール・スタンレー。
キッスはすでに現役でのライブ活動を停止するとしていて、2019年のライブで来日公演も最後になっています。
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実は私自身、彼らのライブに一度も行ったことはなかったのですが、この本を読んだ後に「ああ!なんで俺は行かなかったんだろう!」と激しく後悔させられました。
それくらいに心に響く内容でしたし、バンド活動や音楽業界、ミュージシャンの生きざま、家族の在り方、自分自身の向き合い方などの多くに示唆を与えてくれる本だと思います。
まだ未読の方はぜひ読んでみることをおすすめしますよ!
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