劇場鑑賞レビュー。
前々から、公開したら絶対に観に行こうと思っていた映画だった。
その理由は、
・キングスマンのエグジー役で一躍人気者になったタロン・エガートンが演じているということ。
・数々の名曲を生み出したイギリスのスーパーポップスター、エルトン・ジョンの伝記ものだということ。
・エルトン自体が、タロンが主演する「キングスマン」の2作目に出ていて、それもかなり「エゲつない」演技をしたのを見て衝撃(笑撃ともいう)を受けた記憶が生々しいということ
にある。
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タイトルそのものも、少し前のトランプ大統領が某国の指導者に向けて放った言葉と同じだったこともあってか、妙に耳慣れしていた印象もある。
そして実際に見終わって感じた印象は・・・「軽いテンポだったけど、2つ教訓を学べた」
ということだ。
全体としては「グレイテスト・ショーマン」と「ボヘミアン・ラプソディ」を足して2で割って1.5ほど引いた感じの惹きつけ感だっただろうか。
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ではそのへんを含めながら、映画の内容と感想を自分なりに深堀しつつ語っていこうと思う。
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子供時代のエルトン・ジョンはかなり可愛かった
ステージ衣装を身にまとったタロンが演じるエルトン・ジョンが、アルコール(もしくはドラッグ)中毒のリハビリ施設のミーティングルームに入って来るところから映画は始まる。
かなりドラマティックな演出なのだが、現実のカウンセリングルームの状況と、過去を語りだすエルトンの内的世界が融合してミュージカル仕立てで進むところが、少し分かりづらいところがあった。
カウンセリングルームでの回想は映画のラスト付近にまで及ぶので、ほぼエルトンが語り過去の回想録をもとにした映像で物語は進んでいく。
子供の頃のエルトンはえらく可愛くて、まるで人形のように丸くくりくりした目が誰からも愛されるように見えた。
しかし実際には、エルトンの両親は仲が悪く、父親は家庭には無関心で子供のエルトンには見向きもしない。
母親は旦那が自分に無関心なのに呆れたのか、浮気をするわ、旦那が家を出た後は新しい男を家に入れるわで、結構なビッチぶりを披露してくれていた。
そんな悲惨な家庭環境の中でも、エルトンの才能を信じて応援してくれたのが祖母だ。
恐らく母親のお母さんだと思うが、この人がエルトンがピアノが得意ということを知って、王立の音楽学院に進むように応援するようになる。
そんな祖母の応援を受けながら、エルトンはピアノを弾く毎日に没頭していくのだが、父親が母親と仲たがいして出て行ったあと、新しく家に迎え入れた義理の父親の勧めで「ロック」に目覚めることになる。
ここから徐々に年齢を重ねていくエルトンの見た目の移り変わりと、それに合わせて演出されるミュージカル仕立ての映像が連続して続いていき、時代は一気にデビュー直前のエルトンの時代にまで進んだ。
この中で十代のエルトンが酒場でロックバンドと一緒にピアノを弾くシーンがあったのだが、そこで外に出て青春を謳歌しようぜ!的なPV風の映像になったときに「あ、これ、ちょっと違うな」と思った。
感覚的には映画「ウエストサイドストーリー」的な演出だったのだけど、なんというか、いまいちエルトン・ジョンのイメージに合わないというか、無理やりに派手なロックミュージカルにしてみました的な「あざとさ」が感じられて、ここのくだりの演出には納得できない自分がいたんですね。
そんな中でも、カウンセリングルームで過去を語るエルトンに映像が戻ったりして、時系列を「戻し戻され」な回想ストーリー展開が進んでいく。
デビューを果たしたエルトンと音楽業界
子供時代のかわいいエルトンから、青年時代のタロン・エガートン演じるエルトンにようやくチェンジし、本格的にエルトン・ジョンのスター街道物語にシフトしていった。
タロン・エガートンが演じるエルトンは、若いころのエルトン・ジョンを知らない自分的には、特に良くも悪くもない印象だ。
というか、年を取ってからの「小さくて丸いおじさん」のイメージしかないので、タロンのエルトンは「えっ?これが?」と違和感を感じたのは正直なところ。
映画の中のエルトンは数々の出会いの中で音楽の世界に本格的に入っていき、プロデビューを果たすことになる。
そのときに出会ったのが、その後50年に渡っての親友であり、音楽上のパートナーである作詞家バーニーだ。
バーニーを演じる俳優ジェイミー・ベルは、十年ほど前にイギリスの戦争ホラーゾンビもの「デス・フロント」(2002)で主演を演じていた若者くらいの印象くらいしかない。(元ソフトバンクホークスの川崎宗則選手にも似ている)
でもこの俳優さんがいい味だしてましてな。
エルトンとバーニーの関係が現在まで50年以上も変わることなく続いているという稀有な事実と、その「魂からの友情の深さ」を顔の表情や仕草ででしっかりと演じていたのが心地よかった。(演技が心に残る俳優さんは目の表情が良い)
そんな永遠の親友が最初に会ったきっかけが、エルトンが音楽の職探しに訪れたレコード会社。
そこでスタッフから「これに曲をつけてみて」と渡された歌詞の封筒が、バーニーのものだったのだ。
いくつかのやり取りをしながら、エルトンとバーニーはその後の名曲を次々に生み出していく。
バーニーの歌詞にはエルトンの音楽的センスを刺激するものがあり、その紡ぎだす言葉を目にすることで大いなるインスピレーションが生まれるのだ。
そうして生まれた新たなケミストリーは、さらなる発展を生み出すことになる。
アメリカ遠征だ。
この企画を推し進めたのが、レコード会社の重役で(名前とか経歴は忘れた)、いかにも業界人的なうさん臭さと押し出しの強さを持つイケイケのプロデューサー背広親父は、エルトンたちにアメリカでのデビューを勧めたのだ。
「アメリカで一旗あげてこい。失敗したら殺す」
冗談とも本気とも思えない脅迫的セリフで軽くエルトンたちをビビらせながら(このシーンは笑った)、実際には重役の目論見は成功することになる。
渡米したエルトンを迎えたのは、ロサンゼルスにある有名クラブ「トルバドール」だ。
後にガンズアンドローゼズがデビュー当初と2015年の再結成ライブを行ったライブハウスでもあり、この名前を聞くと条件反射的に「おおおっ!」と前のめりになってしまうガンズファンの自分がいる(笑)
そんな有名ライブハウスでのショウを見事に成功させたエルトンは、その後に行われたパーティーで後に専属マネージャーとなるジョン・リードと出会う。
ゲイだったジョン・リードは誘惑的な目線でエルトンに近づき、やがて一夜を共にする。
エルトンは音楽界にデビューした当時からゲイである自分に気づき始め、映画ではこのジョン・リードとのシーンでそれを明らかにしていた。
ただジョン・リードという男は、後にイギリスに帰ったエルトンのもとに行き、当時エルトンが所属していたレコード会社との契約破棄を迫って、ついに専属マネージャーの地位を得るほどの剛腕の持ち主。
しかも後にエルトンとの私生活が破たんした後も、当時のエルトンの豪邸内で秘書(男性)に〇ェラをさせながら、エルトンと話しをしていて、それに気づいたエルトンが怒って「お前はクビだ!出ていけ!」と怒鳴ると「最初に結んだ契約で、私は君の死後もレコード売り上げの3%をもらうことになっている。その私を首にするなら裁判の準備をしておくことだ」と捨て台詞をはいて部屋を出ていったり、ツアーの最中にキレたエルトンに胸倉をつかまれると殴り返したり、エルトンが人生に絶望して仕事を投げ出しそうになった時も「働けこの野郎!」的なパワハラ発言で電話越しにハッパをかけるなど、かなりの手練れな業界人風情をかましていた。
映画上では、最後にエルトンがリハビリから回復して音楽の道に戻ったところで終わったので、その後ジョン・リードとのマネージメント関係がどうなったのかは描かれていない。
別サイトで見ると、実際にかなりの敏腕マネージャーであったらしく、同時期にあのクイーンのマネージメントも行っていたというから驚きだ。
・エルトンとジョンは、1970~75年まで公私ともにパートナー(マネージメント関係は98年まで続く)
・エルトンが休暇を取り手が空いたため、ジョンは当時人気うなぎ登りだった「クイーン」のマネージメントも手がけることになる
・映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、ジョンがフレディにソロ契約を持ちかけたことで怒りを買いクビになっていたが、実際は友好的に別れたことをメンバーの一人が明らかにしている
・伝説的バンド「クイーン」のフレディと、当時世界のレコードシェア3%を持つエルトンのマネージメントを掛け持ちするという、超絶仕事ができるビジネスマン
今回の「ロケットマン」でも超絶に嫌な奴として描かれていたが、実際にはアルコール・ドラッグ中毒で自暴自棄に陥っていた当時のエルトンに「契約守って仕事しろゴルァ!」と怒鳴ることで、エルトンを取り巻くビジネスの一線を守っていたのがジョン・リードという男だったのかもしれないな。
エルトンを巡る家族の情景
冒頭に書いたように、エルトンの家族関係は子供の頃にすでに破たんしていたというように描かれていた。
父親は軍人でたまにしか帰ってこず、帰ってきても自分の世界に入り込んで、息子のエルトンには見向きもしない。
母親はそんな旦那に愛想をつかして遊ぶことに熱心。
母親役を演じていたのが、ビレッジやターミネーター(2009)、ジュラシックワールドに出演していたブライス・ダラス・ハワードで、80年代に活躍した女性アイドル歌手ティファニーに似ていることもあって、前から好きだった女優さんだ。
上品で可愛らしい印象もあり、どちらかというと性格の良い役柄が多かったと思うのだが・・
今作では最初から最後までダメ系の母親を演じていたので、個人的にはちょっと残念だ。
そんな破たんしかけの家族関係の中で唯一、祖母だけがエルトンを理解し、音楽の道に進むことに前力のサポートをしていた。
ミュージシャンの伝記映画では、子供の頃の家族との不和がよく取りざたされている。
エリック・クラプトンの「12小節の人生」でも、両親の愛情が希薄な環境で育っていた描かれていたし、フレディ・マーキュリーの「ボヘミアン・ラプソディ」では音楽の道に理解のない父親との葛藤がフレディのロックへの道を開いた、的な描写があった(後に和解するが)
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そんな同世代の彼らと同じようにエルトンも、親の愛情を受けられないまま、音楽に自分の人生の情熱を傾けていく。
ただ「得られなかった愛情」は喉にひっかかったトゲのように長年、エルトンの心の中にくすぶり続ける。
ミュージシャンとして大成功を収めてからも、自分の存在を受け入れてくれない父親や、「生まないほうがよかった」と公言する母親。
幾度も家族の愛情を信じながらも、その都度裏切られてきて、エルトンの心は孤独と寂しさでずたずたに引き裂かれていった。
父親と母親にも言い分はあると思う。
父親はエルトンにというよりも、母親との生活に我慢がならなかったのだろう。
その二人の結晶であるエルトンを見るたびに、嫌な妻を見るような感覚。
実際にその後に家を出て、新たな家族を作った父親は、エルトンが訪ねて行ったときは子供に囲まれて楽しそうだった。
それを見て再び傷つくエルトン。
(自分にはこんな顔は見せてくれなかった・・。俺はいらない子供だったのか?)
一方の母親も心が離れていく夫との間に愛情はなく、新しい恋人との生活を続けていく。
エルトンの音楽には理解は示しつつも、成功した後にゲイであることを公表して、マスコミにも騒がれることで思うところもあったのかもしれない。
その思いが「生まないほうが良かった」発言につながったのかもしれない。
そういいつつ、お金だけは無心してくる母親にエルトンはたとえようのない寂しさを感じていたのだろう。
成人して年を得たエルトンのそばには、すでにあの唯一の理解者だった祖母はいなかったのだ。
専属マネージャとの不和、長年の親友だったバーニーとの別れ、心の隙間と埋めてくれると感じた女性との結婚と破局・・・
エルトンの私生活は寂しさと絶望に満ちていた。
そんな彼を辛うじてステージに上らせていたのは「アルコール」と「ドラッグ」の力だった。
リハビリの成功と復活
ステージに上り続けるたびに酒をかっくらい、クスリを飲んで自分を奮い立たせるエルトン。
シラフのままでショウを行うなんて、すでに「中毒患者」だったエルトンには想像がつかなかった。
だけどこのままでは自分は絶対にダメになる・・・
そんなある日、ついにエルトンは決心した。
ステージをほっぽり出して、ステージ衣装のままタクシーに乗り、リハビリ施設に向かったのだ。
施設について集団カウンセリングが行われている部屋に向かって突き進むエルトン。
それが冒頭のシーンにつながった。
ここでようやく時系列が追いつく。
その後、全てを語ってすっきりしたエルトンのもとに、再びかつての親友バーニーが訪れる。
施設のベンチで二人は語り合い、バーニーは一枚の封筒を差し出した。
「歌詞を書いた。それに歌をつけて」
二人が出会った頃と同じスタイルの「曲作り」だった。
バーニーが言葉を紡ぎ、エルトンが曲を乗せる。
シンプルで二人の原点といえるプロセスだ。
そしてエルトンは復活した。
そこで流れるのが「I'm still standing」(1983)のプロモビデオだ。
もちろん上のように本物のエルトンが出ているビデオではない。
タロン・エガートンがエルトンそっくりに演じたPVだ。
これが最後の最後に出てきたときは「タロンにエルトンの魂が宿った」と思わせたくらい、入神の域だった。
それまでは自分的にはそんなに似ていないなと感じつつも、話の流れに気持ちがいって見た目には意識が向かわず、ここに至ってついに初めて「タロン=エルトン」を感じた瞬間。
「俺はまだ立ってるぜ!」
ミュージシャンとして、男として、色んな意味で「復活」を宣言したエルトンの新たなる一歩だった・・
タロン・エガートンの歌声に驚いた!
正直、見た目はあまりエルトン風ではないなと思った。
キングスマンでの「アクション」の印象が強すぎたのかもしれない。
ボヘミアン・ラプソディでフレディを演じたラミ・マレックは、それまであまり知らなかった俳優さんだったから、すんなりとフレディ像に入れたが、タロンの場合はすでに出来上がったイメージからの「エルトン・ジョン」だから、どうしてもエグジー像が自分の中で先立ってしまうのだ。
ただタロンの歌声は良かった。
エルトンと少し異なるけども、力強く男っぽい地声は、本家とは違った野太い魅力を放っていたじゃないかと。
サビの部分で伸びるパワフルな声は、映画で聴いてる限りは、自分的にはかなりマッチしていると感じがした。
ステージ上でのパフォーマンスも圧巻で、序盤のトルバドールでの空中浮遊は、イメージながら、本当に体が浮くような高揚感をスクリーン画面越しに感じれて観ていて本当に楽しかった。
ツアーごとに変わるコスチュームも違和感なくエルトンのそれを再現できていたと思うし、とくに女王陛下の衣装を身にまとったシーンはユーモアがありすぎてけっこう笑ってしまった^^
他にも日本版の映画ポスターになっている野球帽をかぶってピアノの前で演奏しているシーンは、歌う前に本当にバットをもって素振りしてたりして、当時のエルトンのエンタメにかける熱い想いを見ることができた。
基本的にはルックスは「似てない」という声が多かったと思うけど、途中からタロン=エルトン神の領域に突入する瞬間が必ずいくつかのシーンに散りばめられているので、エルトンファンの人はぜひそれを確かめてほしいと思う。
ちなみにエルトンの歌でお気に入りは「土曜の夜は僕の生きがい」と「クロコダイルロック」の2曲です。
ロック好きにはやはりこれでしょう?
まとめ
クイーン、フレディ・マーキュリーに並ぶ伝説の英国ミュージシャンの伝記風映画とあって、劇場には音楽好きっぽいお客さんが結構入っていた。
50~60代のご夫婦がちらほらとおられたが、きっとこの映画で全盛時のエルトンの楽曲を思う存分楽しんでいたと思う。
私は残念ながら、それほどエルトンのファンというわけでもないし、世代的にも80年代からの洋楽好きになるので、今作を見ていてそれほどDNAレベルで興奮するということはなかった。
それでもエルトンの人生には衝撃を受けたし、そこからの復活劇にも心が動くものがあった。
鑑賞後も残り続けた「二つの出来事」から感じた言葉。
「子供は愛情をもって育てろ」
「なんでも話せる親友を一人は作れ」
だ。
暴力を伴う児童虐待はもちろん犯罪だし、ネグレクトも子供の心にトラウマをもたらす無慈悲な行為だ。
たまたまエルトンは成功したからよかったが、そうでなければどこかで道を誤っていたかもしれない。
家族の無償の愛情はもちろん、仲間や親友の存在は、逃げようのない孤独に陥った人間の最後の心の砦だろう。
どちらにも共通するのは「人への愛情」。
優しさ、思いやり、慈しみ・・・
そんな気持ちが自分を救うことになるだろうし、いつか自分の知らない誰かを助けるきっかけになるかもしれない。
少なくとも私はこの映画で、そんな2つのことを感じ取ることができた。
成人指定なシーンも多いですが、ぜひとも大人の皆さんにはご覧になって、色んなことを感じてもらいたいと思います(〇ェラシーンとかあるので子供はダメです)
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