スラッシュの新譜を購入した。
ガンズ再結成後の初のスラッシュの新譜リリースということで、ガンズでのツアーが彼の音楽にどのような影響を及ぼしているか、かなり気になる。
思えば2015年にガンズがアクセル、ダフ、スラッシュのクラシカルなメンバーで再結成してから、早くも3年が経った。
その間、彼らはワールドツアーを続け、精力的に世界を飛び回ってきた。
その傍らでアクセルはAC/DCのツアーでブライアンの代役を務め、スラッシュは自身のソロプロジェクトの曲を温めていたという。
スラッシュ
そして今回。
9月21日に発売されたばかりのホッカホカな出来立てベビーカステラのようなふわふわアルバムが、今まさにこの私の手元にあるというこの感動・・・(実際には出来立てから一週間以上経過しているから固くてガチガチである)
出来立てのガチガチ
もちろんスラッシュのソロアルバムといっても、スラッシュ自身が歌うのではない。
歌う相棒はお馴染の男、マイルス・ケネディだ。
2012年からスラッシュとギター&ボーカルのコンビを組む凄声の持ち主で、ハリウッド俳優のケヴィン・ベーコンに似ている以外には、時折その顔が愛嬌の良い犬のように見えるから、きっと前世は美声のパトラッシュだったに違いない。(ファンの皆さん、すいません)
そして曲を盛り立てるバンドもお馴染の「ザ・コンスピレーターズ」。
長身のベーシスト(名前は知らない)が意外に声が渋くて、ガンズのライブでダフが途中から「アティチュード」を歌うように、スラッシュのライブでレミーの「ドクターアリバイ」を歌い上げる動画を見て、ボーカルのマイルス以上にファンになってしまったメンバー擁する凄腕バックバンドである。
www.youtube.comそんなスラッシュとソリッドな仲間たちがリリースしたニューアルバム「LIVING THE DREAM」を早速レビューしてみよう。
*本サイトの記事内に広告が含まれる場合があります
ニューアルバムのレビュー序章
まず最初にアルバムを開いた瞬間、レミーの顔を描いた絵が目に飛び込んできた。
それは同封のパンフの裏側で、スラッシュらが並んで映るバンドショットなのだが、その背後の壁に絵がかけられていて、それがレミーだというわけだ。
レミーとは有名なモーターヘッドのボーカルを長年務めた男前のロッキン親父で、酒焼けした渋すぎる声があまりにも魅力的すぎるがゆえに、多くのファンの自宅のうがい薬を「イソジン」から「ジャック・ダニエル」に替えさせたという素晴らしい逸話を残していたとかいないとかいう噂があったほどだ(ウソだぞ)
少なくともスラッシュ初のソロ・アルバムで「ドクター・アリバイ」を歌ったその声で衝撃を受けた私のようなレミービギナーは全世界で数千人は存在していただろう。
そんなレミーは2015年に死去する。
死因などの詳しい内容は以下の記事に譲るとしよう。
レミー・キルミスター、スコット・ウェイランド、どうか安らかに・・・・
そんな彼の肖像画をニューアルバムのパンフのバンド写真の背景に見つけたとき、少なからずとも「レミーに捧げる」的な雰囲気を感じて、思わず居ずまいを正すような感覚に襲われてしまった。
きっとレミーの持ち味だった「疾走感溢れるロック」アルバムに仕上がっているに違いない。
そしてそれを暗示するかのようにスラッシュらは、パンフの背景にレミーの肖像画を掲げたに違いないと・・・
そんな期待を胸にしながら。私は静かにCDをパソコンに挿入し、画面から流れる波形とともに音楽を聴き始めたのである・・・
意外に〇〇だった前半のラインナップ
まず初めに全部の曲を一通り聞いた印象だ。
多くのAmazonレビュワーが語っているように、マイルスの歌唱力は抜群で楽曲のレベルも当然ながら非常に高い。
バンドの演奏も完璧だ。
これは・・・
と思い、さらに2度、3度と聞き込んでいった。
これまでの経験から、本当に良いアルバムというのは、一度聞いた時はそれほど胸に響くことが少なく、数回聞いて耳に馴染ませることで本当の魅力が徐々に露わになってくるものだ。
逆に試聴で最初にガツン!とやられたアルバムやシングルほど、長く聞き続けると飽きが来るのが常だった。
そんな印象をこのアルバムにも感じ、何度も聞き込んでいく。
まず1~4曲目までは、最初に抱いた印象通りだ。
ごくごく普通の今風ロックという感じで、スラッシュのギターもそれほど目立つことなく、淡々とマイルスとバンドのスマートで耳触りのよい音が続いていく。
あえて言うなら「疾走感」。
これだけは共通していた。
このままで終わるのか・・・
【追記】(2018年11月25日)
最初にこの記事を書いてから2か月、ほぼ毎日聞き込んでいるが、今では一曲目からその良さが伝わってくる。
リフや疾走感だけではない、曲全体のクオリティの高さというか、そこに込められた気持ちを高ぶらせる何かが徐々に響いてくる感じ。
何度聞いても飽きない楽曲になってきている。
一発目のパンチこそ少ないものの、繰り返し聞くことで「ロック」が体に馴染んで来るアルバムだと思う。
アルバムのレビュー
1.「THE CALL OF THE WILD」
序盤のギターのエフェクト音が小から大へチェンジしていく様がかなり格好いい。ボーカルのマイルスの声もスタートから伸びていて聞き心地も抜群。サビ直後のミニリフもスラッシュ節が炸裂していて「ガンズサウンド」をほんのり堪能できる。中盤のマイルスの叙情的なコーラスがかなりイイ感じで、その後に続くソロパートと合わせると、新たなスラッシュのサウンド世界を期待させてくれる雰囲気に満ちている
2.「SERVE YOU RIGHT」
ミドルテンポのオープニングリフに合わせてマイルスの粘りのあるボーカルが光る。曲のあちこちに散りばめtられるスラッシュのうねるようなリフが官能に響いてきて、サビ部分のソロ―パートで一気に跳ねる感覚が本当に気持ちいい。全体的にスネイクピット時代の雰囲気を濃厚に持っている一曲。
3.「MY ANTIDOPE」
小刻みなギターカッティングとドラミング、ハイトーンコーラスで幕を開ける。その後にお馴染みのスラリフが炸裂して曲の本番に導く。サビ部分の凄みのあるマイルスのボーカルと、響きような低音がカッコいいベースライン、それに合わせるリズムギターとスラッシュの絡みつくようなソロパートが「ガンズ」していると思わせる一曲。
4.「MIND YOUR MANNERS」
疾走感溢れるロックだ。バンドとボーカルの生み出すサウンドの一つ一つが車やバイクのエンジン音を彷彿とさせてくれる。止まることなく最初から最後まで一気に駆け抜けていくスピード感が最高な一曲。
5.「LOST INSIDE THE GIRL」
静かで哀愁感溢れるスターティングに、マイルスの涙をこらえるような情感たっぷりの歌声が胸に響いてくる。サビの部分の盛り上がりで一気に気持ちは高揚し、愛するものを失ったような哀しみが鼓膜の奥に伝わってきた。その後に襲来するスラッシュのリフもまるでサンタナのように切なく、哀愁に満ち溢れている。
6.「READ BETWEEN THE LINES」
最初からグルービーなリフが炸裂し、その後に続く短めなマイルスの熱い叫びと、多重奏なバンドコーラスで静かに唸らされた。 スラッシュの「鳴き」のソロ、繰り返されるリフも耳に「心地よかった」一曲。
7.「SLOW GRIND」
ベースラインが特徴的な弾む系のロックだ。 マイルスの上下に揺さぶるボーカルが耳に心地よく、この曲はスラッシュよりもベースとボーカルの上手さに耳が奪われた(もちろんソロ部分のスラ節も気持ちよい)
8.「THE ONE YOU LOVED IS GONE」
アルバム中、最も好きではないかと思わせる、スターティングからの切ないギターのリズムとメロディライン。続くマイルスの悲しみを湛えるような熱唱は本当に胸に響き、歌タイトルの「愛する人は行ってしまった」の意味する通り、愛する人が去った男の哀しみを熱く、切なく歌い上げる。80年代を彷彿とさせる懐かしくも熱い至極のロックバラードだ。
9.「DRIVING RAIN」
一転してパワー系の正統派ロックチューンとなっていた。 ミドルテンポかつ底流にあるメロディーは、80'Sを彷彿とさせる爽やかさを保ちつつ、そこにスラッシュのうねるようなギターリフと、マイルスの現代的なボーカルが新しい何かを耳に残してくれる感じがする。
10.「SUGAR CANE」
スラッシュの切り込むようなカッティングギターで始まる一曲。これは完全にスラッシュのためにある楽曲という印象で、全ての要素がスラッシュのソロやリフを生かすように組み立てられていると感じた。疾走感溢れまくるスラッシュ系ロック。
12.「THE GREAT PRETENDER」
それまでの引き込まれ感が少し落ち着いたようなスローテンポなバラード系ロックとなっている。 出だしのギターが完全にサンタナをイメージするほど哀愁系。全編を演歌の「コブシだよ親父」的な世界観が覆う感じ。スラッシュは北島の親父のファンだったのか?と思わせる粋な一曲。哭きのギターソロが最も健在なチューンだ。
13.「BOULEVARD OF BROKEN HEARTS」
テケテケなリズムギターから始まる壮大系ロック。ミドルテンポな流れで、マイルスお得意の伸びのあるパワーバラード風ボイスと、スラッシュ独特の哀しそうで実はカラっと乾ききっている感情を表現したようなリフ&ソロが不思議と耳を魅了する一曲だ。このバンドの立ち位置を最も表現しているような楽曲となっている。
アルバムレビューまとめ
全体的にボーカリストであるマイルス・ケネディのカラーが強く表に出ているアルバムという印象を受けた。
ボーカルによって演奏や曲の雰囲気を変えるのは、バンドの音楽性をけん引するリードギタリストとしては当然だろうが、スラッシュのグルーヴィーでブルージーなギターを堪能したい私のようなファンからすれば、少し物足りない感じはする。
ただ繰り返し聞き続けていると、不思議とそんな「物足りなさ」が消えていく現象が起きてきた。
これは本当に驚いたが、何度も聞くことで曲の新たな発見ができるし、その日のその気分によって聞きたいサウンドのパートがクリアに聞こえてくるから、まさに音の処方箋のように感じてくる。
聞き始めのパンチ力こそ少ないが、何度も聞いてこそロックの凄みが感じ取れる作品になっている。
スラッシュがなぜマイルスを相棒に選んでいるかが分かる、そんなアルバムだと思う。
追記(スラッシュの来日ライブ情報)
来年の一月にスラッシュとその仲間たちが来日ライブを行うことになった。
日程は2019年1月15日と17日の2DAYS。
場所は東京と大阪だ。
私もチケット購入済で、今から来年に備えてアルバムを夢に出てくるまで聞きまくるつもりだ。