『狩人と犬、最後の旅』を見に行った。
本当はパイレーツ・オブ・カリビアンを見に行く予定だったのだが、席が空いておらず、それじゃあ、ということで、別の映画を見に行くことになったのだ。
以前、タレントのおすぎがこの映画を褒めていたことを思い出し、この映画に決めた。
「最初から最後までドラマティックなシーンは全然ありません。ただ淡々と山の生活を描いているだけ。でも最後には見て良かったと思いました。自然の美しさ、厳しさ、人間と犬との信頼関係が素晴らしい。ぜひ一度御覧になってください」
おすぎ氏(嬢?)は褒めるでもなく貶すでもなく、淡々とこう語っていた。
ハリウッド式の大仰な作品に見飽きてきた昨今、たまにはこういう大自然を背景にした記録映画も良いかもしれない。
そう思い映画館に入った。
何よりもおすぎ氏の、
「淡々と山の生活を描いているだけ」
という一言が気に入ったのだ。
果たしてその結果は?
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あらすじ
物語は主人公の狩人と犬が、雪の中で野性の大鹿を待ち伏せするところから始まる。
真っ白な雪原、吹き荒れる雪嵐・・・
大鹿の大群が、視界ゼロに近い吹雪の中を粛々と動き回る姿を、カメラは克明に捉えていた。
狩りを続けながら、山々や河を移動する狩人と犬。
道々で獲物を得た二人は、やがて彼らの帰りを待つ妻や仲間の犬達の元へと戻っていく。
生活の全てを自然から得てきた狩人ノーマンは、50年間も山と共に暮らしてきた。
そんな厳しくも心豊かな日々の中、ノーマンは自分達の住むロッキー山脈が森林伐採によって破壊され、動物が減少していくのを感じ始める。
もうこれ以上、ロッキーで狩猟生活を続けるのは無理かもしれない。
そんな思いと共に、今年限りで山での生活を終えることを決心したノーマンは、新しい猟場で小屋を造り、最後の猟の準備を始めるのだった・・
犬との別れ、そして出会い
過酷な自然の中でノーマンと犬たちは力強く駆け抜けていく。
雄大かつ物悲しげな音楽、犬達の無邪気な表情、そして時折、寡黙な登場人物達を通して語られる「言葉」が、観る者の心を静かに打つ。
「人間には自然界の調和を保つ義務がある」
ノーマンは長年、猟を通じて生態系の調整をすることに、狩人としての本分を見出してきた。
必要以上に獲物は獲らない。適度に間引くことによって、強くなって数が増えすぎた動物と、その獲物になり減少していく動物とのバランスをとる。
これが狩人に与えられた仕事なのだと。
「獲物を仕留めても、哀れみは感じないよ。ただ感謝をするだけ」
哀れみは自分より下の相手に感じるもの。
人も動物も死んでいくことは皆同じ。
他の動物と同様、人間も自然の恵みに生きる輪の中の存在でしかないのだ。
そんなノーマンの目線に、私は強い共感を覚えた。
アパッシュとリーダー犬、ウォークの子供達が戯れるシーンは、犬好きの私としては頬がゆるみっ放しだった。とにかく子犬が可愛かった。
ノーマンが獲物の肉を切り落としている最中に、子犬が両側から交互に肉をかじっていくところなんか最高である。
「こらこら」とノーマンに手で片方の子犬が払われると、もう片方の子犬がすかさず肉をかじる、といった風景は、うちで飼っている2匹の文鳥に通じるものがあった。
もう一匹のノーマンの妻・ネブラスカに撫でられながら、その腕の中で眠る子犬の姿なんか、デレデレものである。
犬ぞりで雪原を駆け抜けるシーンや、機械に頼らず、手斧で木を切り倒してログハウスを造り上げるシーンのほかに、特別目を引くシーンは見当たらない。
それでも見終わった後は、なぜだか席を離れられなかった。
音楽のせいかもしれない。
スクリーンに映し出されたノーマンと妻のネブラスカ、そして犬達が暮らす山小屋を俯瞰で捉えた映像のせいかもしれない。
とにかくなんだか感動してしまった。
それも深く静かに。
最後のところで、妻のネブラスカが「今年で山を降りると言ったのに、どうして新しい小屋を造ったの?」とたずねると、ノーマンが「本当だな」と言って、ニッコリ笑っていた。
このシーンが映画の全てを語っているような気がする。
主人公のノーマンは本人である。
冒険家であるニコラス・ヴァニエ監督が、ユーコンを旅行中にノーマン氏に出会い、映画製作を思いついたという。
演技指導は一切なかった。
それはそうだ。
普段の生活をそのまま再現しただけなんだから。
とにかく心に残る作品だった。
久しぶりに映画で「本物」に触れた思いがした。
特典付きDVDでは、ニコラス・ヴァニエ監督によるインタビューもあるので、ぜひぜひ鑑賞いただけたらと思う。
追記(2016年11月)
映画鑑賞から10年経ったが、この作品に勝る自然系作品は見たことがないような気がする。(自分が見てないだけかもしれないが)
ミニシアター系の映画館にいけば上映しているのかもしれないけど、全体的に人間主体の作品ばかりのような気がするなあ。
人が余裕を失くしている証拠なのだろうか?
動物愛護の機運はこの頃よりもずいぶん高くなっていて、実際の動物保護のレベルは確実に上がっていると思う。
同時に資源確保のための争いが地球規模で始まっていて、野生動物に対する保護の流れは後退しつつあるのかもしれない。
なんだか相反することを言ってしまってるが、正直、この先地球がどうなるのか、人と動物との関係がどうなるのかは、分からないのだ。
オーメンのレビューでも触れたように、人はいつしか地球環境にとって悪魔的な存在になってしまったのかもしれないとも思う。
⇒【オーメン666】悪魔の子ダミアンが仕掛ける人類の最期と地球環境の今後
とにかく犬とノーマンの関係は最高だった。
また続編を見てみたいと思います。